夏の音、夏の匂い

待ちに待った夏休み。海や花火大会、キャンプなど、今の時期ならではのイベントを親子で楽しんでいる方も多いのではないでしょうか。そんな夏本番の8月にお送りする今回のブックトークでは、数ある絵本の中でも、夏ならではの音や匂いがリアルに伝わってくる、とっておきの作品をご紹介します。子どもはワクワクし、大人は子どもの頃を思い出してちょっと切なくなる、そんな絵本の世界をお楽しみください!
今回のブックトークゲスト

さいたま市立武蔵浦和図書館
児童・地域係 O塚さん

司書歴12年。長新太さんや樋勝朋巳さん、山口マオさんの作品が好きで、おはなし会で選ぶ絵本や紙芝居も面白いと評判の、素敵なセンスの持ち主。手芸が趣味なだけあって、本を透明なカバーで覆う細かい作業も、テキパキしていて美しいと評判だとか。

さいたま市立武蔵浦和図書館
児童・地域係 W杉さん

司書歴2年。好きな絵本はほんわかしたタッチのもので、最近は写真絵本も気になっているのだそう。バリバリと仕事をこなす姿、おはなし会でのとても落ち着いた対応。2年目ながら早くもベテラン感漂う、武蔵浦和図書館の頼れる存在。

※プロフィール内容は取材当時のものです

今回セレクトしていただいた本
「なつのいちにち」
作・絵:はた こうしろう
出版社:偕成社(2004年)
価格:1,000円(税別)
「いけのおと」
作・絵:松岡 達英
出版社:福音館書店(2013年)
価格:800円(税別)
「わにわにのおでかけ」
作:小風 さち
絵:山口 マオ
出版社:福音館書店(2007年)
価格:900円(税別)

※全てさいたま市の図書館で借りることができます

海水浴や花火大会などのイベントも多い夏。潮風や夕立の匂い、打ち上げ花火や風鈴の音など、今の時期ならではの音や匂いもありますよね。そんな夏本番の8月にお送りする今回のブックトークは、武蔵浦和図書館のO塚さんとW杉さんがゲスト。「夏の音、夏の匂い」をテーマに絵本をご紹介いただきたいと思います。
「夏の音や匂いがリアルに感じられる絵本」ですね。実は、ちょうどテーマにぴったりの絵本があるんです!それがこの「なつのいちにち」。小学生の男の子が、親も、いつも一緒に遊んでいるおにいちゃんもいない夏休みのある日、ひとりでクワガタを捕まえる冒険をする、ドキドキワクワクのお話です。
わ、表紙の空の青さに吸い込まれそうです!
夏のジメジメムシムシとした熱気が伝わってきますよね。構図もローアングルだったり、俯瞰だったり、まるで映画を観ているようでしょう。
木に登るときの虫取り網の位置や、急なにわか雨からクワガタを守る持ち方とか、大人が見ても「ここおかしいだろ」ってポイントが全然ない。クワガタもアゴや脚まですごくリアルで。ところで、これって何クワガタなんだろう?
どれどれ……うーむ、このたくましいアゴからすると、オオクワガタじゃないですかね。私も小さい頃、弟と2人でクワガタやカブトムシを捕まえに、野山を走り回っていたクチなので。
同じです!私も田舎育ちなので、男の子がクワガタを捕まえたときの「やったー!」って反応に、子どもの頃の昆虫採集を思い出しました。なつかしいなぁ。大人になった今でも、子どもの頃の出来事って覚えているものなんですね。
私にはもう遠すぎて、ぼんやりとしか思い出せない……(笑)。それでも、子どもの頃って今よりもっと1日が長くて、毎日が充実していたことだけは覚えています。大人になると毎日が単調になりがちなので、余計にそう感じるのかもしれませんが。
そう考えるとこの絵本も、クワガタを捕まえるまでにケガをしたり雨に降られたりと、波乱万丈でまるでドラマみたいですよね。子どもの体感時間が長いのは、初めての体験や発見がたくさんあって、喜怒哀楽を感じることが多いからなんだとか。
たしかに、友達と喧嘩して仲直りしたとか、逆上がりができるようになったとか、今考えるとたいしたことではないことが、子どもの頃はすごく刺激的でした。なにげない夏休みの1日1日が大イベントだということは、大人の1週間分の夏季休暇でも、子どもは1か月分くらい楽しめるってことですよね!なんとうらやましい(笑)。
なんだか、忘れかけていた子どもの頃の夏が、だんだんよみがえって来ました! ではこの勢いで、もっと思い出せるような、夏の1日を感じさせる絵本をお願いします!

じゃあ、こんな本はどうでしょう。子どもと同じように、きっと自然のなかでたくましく生きる生き物にもたくさんのドラマがありますよね。それを描いたのがこの「いけのおと」です。森の中の小さな池を舞台に、さまざまな虫や鳥、魚たちの1日が描かれています。ちょっとページをめくってみてください。
へえ、このあまがえるくんが主人公なんですか?「げぇこ、げぇこ」や「ぽちゃん、ぽちゃーん」。なるほど、生き物の様子が文字通り「いけのおと」で表現されているんですね。
あまがえるくんはどのページにも登場するわりに、主人公かというとそうでもなくて(笑)。ストーリーらしいストーリーもなく、ほとんど擬音だけなのに世界観に入り込めて、まるで自分も池のほとりに佇んでいるような気持ちになれる、不思議な絵本です。
人間の目から見た『なつのいちにち』も、生き物たちから見るとこんな感じに見える、という気づきも与えてくれますね。
そうですね、同じ夏の光景でも、子ども視点で見るか、生き物の視点で見るかで、また違った楽しみ方ができますね。「なつのいちにち」を気に入る昆虫好きの子どもは、この「いけのおと」に出てくる虫や植物にも興味を持ちそうですし。
それにしても、身近な池にこんなに生き物がいるんですね。初めて名前を聞いた生き物もたくさんいてびっくりしました。
生き物の絵の下に名前が書いてあるので、字がまだ読めない子どもに「これは何ていう名前なの?」と聞かれても安心な、生き物に詳しくないママにも優しい仕様になっております(笑)。
これは、親子で水辺の生き物観察をする時のおともにしたい1冊ですね。 ブックトークの盛り上がりとともに、私の記憶もだんだん鮮明になってまいりました(笑)。 ということで、さらに夏の絵本のおかわりをお願いします!

では、この「わにわにのおでかけ」はどうでしょう。子どもたちに大人気の「わにわにシリーズ」の中の1冊です。さっきまでとは違い、こちらは夏のもうひとつの表情「夜」を楽しむことができます。
夏の夜と“わに”?ああ!これ、主人公の“わにわに”が、縁日に出かけるお話なんですね。このイラスト、かわいくデフォルメされているわけじゃないのに、なんともいい雰囲気!これ、この最後のページの“わにわに”の顔、個人的にすごくツボです(笑)!
最初は不気味に感じても、読み終わったときには「“わにわに”、かわいい…」と思ってしまう、不思議な魅力があります。ちなみに、私が好きなのは、この金魚すくいをする“わにわに”です。
にやけ顔がいいですねえ(笑)。この独特な版画の挿絵、どなたが描かれているんでしょう?
イラストレーターの山口マオさんです。実は私、マオさんの大ファンで、マオさん情報を追いかけるうちにこの本の存在を知ったんです!この縁日の提灯、たくさんお店の名前が書いてあるでしょう?実はこれ、実在するお店もあるんですよ。
ほんとに!どこにあるんですか?
マオさんの地元です。地元にギャラリーショップを開かれているので、きっとつながりのあるお店の名前を書かれたんでしょうね。マニアックですが、見つけたときには「おぉ!」とうれしくなっちゃいました(笑)。
そんなところに気がつくなんて、さすがです。今気づいたんですが、この本はタイトルにも、中の文章にも「夏祭り」や「縁日」って言葉がまったく入っていないんですね。
私も読む前は「わにわにがお散歩にでも行くのかな?」って勘違いしてました。だからこその、良い裏切り感がまたなんともいいですよね。
「わにわにのなつまつり」や、「わにわにえんにちへゆく」のようなタイトルでも成り立つのに、あえて「わにわにのおでかけ」。私が一人で「夏」をテーマに絵本を探しても、きっとこの絵本には気づかなかったと思います。
一見夏とは無関係そうな絵本でも、実は「夏の空気や匂い」が感じられる絵本ってたくさんあるんですよ。今回のように、想像していたのとは違う予想外の絵本に出会えるのが、本選びの醍醐味。いつものパターンとは違う絵本を選びたいと思ったときには、ぜひお近くの職員に声をかけてみてくださいね。
今回セレクトしていただいた本
「なつのいちにち」
作・絵:はた こうしろう
出版社:偕成社(2004年)
価格:1,000円(税別)
「いけのおと」
作・絵:松岡 達英
出版社:福音館書店(2013年)
価格:800円(税別)
「わにわにのおでかけ」
作:小風 さち
絵:山口 マオ
出版社:福音館書店(2007年)
価格:900円(税別)

※全てさいたま市の図書館で借りることができます