猫と暮らせば

今回のブックトークの公開月となる2月には、私たちに馴染みの深い、ある動物の記念日があるのをご存じですか?実は2月22日は、そのかわいらしい鳴き声「ニャンニャンニャン」にちなんで制定された「猫の日」なのだそうです。そこで今回のブックトークでは岩槻図書館のお二人をゲストに迎え、猫の登場する絵本をピックアップ。日常の中で出会う猫たちのアレコレに思いをめぐらせ、楽しいブックトークを展開します。
今回のブックトークゲスト

さいたま市立岩槻図書館
児童・地域係 Sさん

児童・地域係の中で在席年数最長のリーダー役。やさしい声質とゆったりした口調の読み聞かせに、集中して聞き入る子どもも多いそう。車や釣り、スポーツなど多趣味で、日本の名所や名物にも詳しいアウトドアの達人。

さいたま市立岩槻図書館
児童・地域係 Hさん

司書歴4年。真面目で責任感のある児童・地域係のエース。最初は緊張したという読み聞かせも、今では絵本なしの「すばなし」をこなすほどの腕前に。Jリーグファンで、お気に入りの絵本は林明子さんの「はじめてのおつかい」。

※プロフィール内容は取材当時のものです

今回セレクトしていただいた本
「ねこどけい」
作:岸田 衿子
絵:山脇 百合子
出版社:福音館書店(2016年)
価格:900円(税別)
「ねこはまいちにいそがしい」
作・絵:ジョー・ウィリアムソン
訳:いちだ いづみ
出版社:徳間書店(2018年)
価格:1600円(税別)
「10ねこ」
写真・文:岩合光昭
出版社:福音館書店(2016年)
価格:900円(税別)

※全てさいたま市の図書館で借りることができます

さて、今回は2月22日の「猫の日」にちなんで、猫が登場する絵本をご紹介くださるとのことですが、猫といえば、犬と並んで古くから私たち人間と関わりの深い動物ですよね。調べたところ、紀元前8千年紀中盤には人骨と一緒に猫の骨が発掘されたとか。
紀元前8千年!さすが人類の友とあって猫の登場する絵本は、さいたま市の図書館にも数えきれないほどありまして、おはなし会で読む機会もとても多いんです。猫に限らず日常的で馴染みのあるテーマを扱った絵本は、子どもたちが絵本の世界に入り込みやすく、親子の会話を広げるのにぴったりだと思います。

私が選んだこの「ねこどけい」も、そんな子どもと猫の日常を描いた絵本です。幼稚園くらいかな。小さな女の子の“ことちゃん”は、“ねねこ”という猫を飼っているんですが、出かけている間に、この表紙の鳩時計を“ねねこ”が壊してしまうんです。
お出かけから帰ってきたら「なぜコレがこんなことに!」という展開。「ペットあるある」ですよね。その空白の時間に家で何が起こっていたのかを、「ぐりとぐら」でお馴染みの山脇百合子さんのやさしい絵で描いたのが、この「ねこどけい」なんです。
山脇百合子さんの絵、鳩時計、時計屋さん。私のような昭和世代の親にとってはとても懐かしい印象の絵本ですが、発行は2009年と比較的新しい作品なんですね。 あと、“ことちゃん”の留守中に何が起こったかがわかる、この8ページにわたる描写で、 “ねねこ”がわりとリアルな猫として描かれているのもちょっと意外でした。
ぐりとぐら」のイメージがありますし、二本足で立って“ことちゃん”を見送る場面を見ると、擬人化しているのかなと思いますよね。でも、実際に読み進めると、まるでカメラの録画映像を見るかのように、リアルな猫の習性や動きをうまくとらえていて、擬人化とはまた違う、本物の猫のかわいさや気ままさが伝わってくるんです。
文も状況説明で、“ねねこ”は「にゃん」と鳴いても別にしゃべりはしない。だから「何が起こったのか」はわかっても、“ねねこ”が鳩に飛びついた理由はわからないんです。そこに興味を持つことができれば、動くものに飛びつく猫の狩猟本能について、親子で話すきっかけになりますよね。
ただ「ねこちゃんかわいいね」だけでなく、子どもの新しい気づきにつながっていく読み聞かせって理想的ですよね。ちなみにSさんは、“ねねこ”が鳩に飛びついた理由を「猫の習性」という視点で話されましたが、「猫の気持ち」という切り口から考えてみることもできますよね。ちょっとファンタジーに入っちゃいますけど。
ややネタバレですが、最後は“ねねこ”は鳩時計のような顔だけ出せる小さな家を手に入れ喜びます。それがタイトルの「ねこどけい」につながるわけですが、「ステキなおうちを持つ鳩がうらやましかった」とファンタジーに持っていくことも、「小さい箱に入りたがる猫の習性」として動物学に持っていくこともできますよね。
やさしい山脇さんの絵と、リアルな猫の動き。この絶妙なバランスだから、それができるんですよね。個人的にはファンタジー派なので、「猫の気持ち」にフォーカスしてアレコレ想像を楽しんでみたいです。「ねこどけい」のように、猫の習性をリアルに描きながら、もう少し猫目線で楽しめるような絵本はありませんか?

でしたらこちらの「ねこはまいにちいそがしい」はどうでしょう?「ぼくはねこ」で始まり、一人称で猫の視点で毎日の生活を描いた絵本です。寝て、遊んで、人間からみたら自由気ままに見える暮らしも、猫からすれば忙しい毎日なんだ、と主人公の猫は主張します。そのどれもが上から目線で、そこがまたいかにも猫らしいというか。
遊びひとつとっても、飼い主に対して遊んで“もらう”のが犬とすれば、遊んで“あげる”のが猫。もちろん猫はしゃべらないので、ファンタジーといえばそれまですが、気まぐれで勝手な、いかにも猫が考えていそうな内容なので、妙にリアリティがあって納得してしまうんです。
猫の気持ちを通じてわかる、猫の価値観が面白いですよね。猫が恩返しで虫の死骸を玄関に置いて「ギャー!」っとなる人間を見て「あれは喜びの悲鳴だな」と思っている、みたいな(笑)
猫にとっては全力の感謝の行動も、飼い主にとってはこの上なく迷惑だったり。でもこれは猫に限らず、子どもと親の価値観の違いでも似たようなことがありますよね。頑張ってお手伝いしたことが、逆に仕事を増やして怒られる、とか。そういう点では、子どもが読むと共感できる部分が案外多いかもしれませんね。
共感できなかったとしても、こうした自分以外の存在に、自分と違う価値観や考え方がある、ということに気づき、そこに心を寄せてみるというのはとても大事ですよね。
自分と他人の考え方や価値観が違うというのは、大人にとっては当たり前のことでも、それはあくまで学習したからわかることで。今まで自分がこうだから、相手もこうだろうと思っていたことが、「あれ?もしかしたら違うかも?」と気づく第一歩になったらいいですよね。
「私は(僕は)猫じゃないからわからない、わかりっこない」ではなく、「こうなのかもしれない」と心を動かして近づけることは、本を楽しむうえで大切な想像力を育てるだけでなく、他人への思いやりにもつながりますよね。
この「ねこはまいにちいそがしい」を読んだ後、猫の絵や写真を見ながらどんなことを考えているのか、猫の気持ちになってセリフを考えると楽しそう。子どもって発想がユニークだから、大人では思いつかないセリフが飛び出しそうでワクワクします。

ネットにアップされている猫の写真や動画でもいいですし、この「10ねこ」のような写真絵本を使うのもいいですね。見開きごとに1匹ずつ増えていく猫の写真絵本なんですが、親子で好きな猫を選んで猫の気持ちで会話してみると楽しいと思いますよ。
スタジオ撮影した、いかにもなカワイイ動物写真でなく、野原や海岸、道端といった日常の風景に溶け込んだ感じがリアルでいいでしょう。ちなみにこの絵本は、表と裏で表紙がつながっていて、全身が写っているんです。向きになったこのポーズは「へそ天」といって猫好きの間では人気のポーズらしいですよ。
この表紙の写真、どこを見て何を考えているのかわからない感じで、子どもが見たらどんなセリフが出るのか楽しみですね。あっ!思ったんですが、「ねこどけい」の“ねねこ”が鳩時計にとびかかる一連のページを“ねねこ”の気持ちになってセリフを考えてみるっていうのはどうでしょう?
ああ!いいですね、それ。あのシーンはナレーションのような文のみで、“ねねこ”のセリフはないですし。まさにMさんが言った、なぜ“ねねこ”が鳩にとびかかったのか、を「猫の気持ち」の視点から考えるということですね。
「猫の習性」という視点だと答えに限界はありますが、「猫の気持ち」なら正解がないから何でもアリになりますよね。例えば、“ねねこ”が鳩にとびかかる場面も、「あっ、鳥だ!おいしそう!」でもいいし、「あっ、鳥さん!いっしょに遊ぼう!」でもいい。
小学生くらいになれば「ねこどけい」だけで猫の気持ちに寄り添ってアレコレ考えられると思いますが、想像力って子どもによって差があるので、小さいうちは例えばこんな感じというサポートが必要ですよね。「ねこはまいにちいそがしい」はそこをうまくカバーしてくれる絵本だなぁと思います。
そうですね。あえて狙ってご紹介したわけではありませんが、「ねこどけい」で生まれた猫の気持ちに対する疑問や興味を、「ねこはまいにちいそがしい」をヒントに、親子で考えるというのは、子どもの想像力を育てるとても良い流れだと思います。
さらに猫の写真絵本「10ねこ」で、おはなしの中の猫からリアルな日常の猫にスライドすることで、道で出会った猫が、「今どんな気持ちなのかな?」「何を考えているんだろう」と想像できるようになる。そんな道筋がこの3冊でできそうな気がします。
そうして育んだ想像力を使って、自分が猫になった視点で人間の世界を見るという、あの名作文学「吾輩は猫である」へとつなげていく、と。おお!なんという完璧な布陣(笑)。
いやいや、そこまでつながるとは予想外で、私たちもちょっとびっくりです(笑)。 すぐに読めなくても、それが面白いならこんな本があるよ、と予告編を見せてあげるような感じで、絵本をきっかけにひとつの興味が生まれたら、そこで次につながる点を打っておく、というのはすごく大事だと思います。
そうですね。この流れでいうと、もし猫からみた人間の世界に興味を持ったら、ざっと「吾輩は猫である」を紹介して、青い鳥文庫のような手に取りやすい本を、いつでも読める場所に置いておいてあげるといいですよね。読みたくなったらここにあるからいつでも読むといいよ、みたいな感じで。
それ大事ですよ。私自身、それほど本好きな子どもではありませんでしたが、家に「十五少年漂流記」があって、なんとなく手にとっているうちに夢中になった経験があります。想像力が育てば、本や映画などいろんなことが楽しめるようになる。そんな風に子どもの世界が広がるお手伝いができたらうれしいな、と思っています。
ひとつの本が次の本へとつながりながら、子どもの想像力を広げていく。今回のブックトークでご紹介いただいた3冊のつながりは、まさにその典型だと感じました。 親子の絆を深め、子どもの想像力を育てるためのヒントがいっぱいの楽しいブックトークをありがとうございました。
今回セレクトしていただいた本
「ねこどけい」
作:岸田 衿子
絵:山脇 百合子
出版社:福音館書店(2016年)
価格:900円(税別)
「ねこはまいちにいそがしい」
作・絵:ジョー・ウィリアムソン
訳:いちだ いづみ
出版社:徳間書店(2018年)
価格:1600円(税別)
「10ねこ」
写真・文:岩合光昭
出版社:福音館書店(2016年)
価格:900円(税別)

※全てさいたま市の図書館で借りることができます