本をはさんで親子で話そう


Chapter 3言葉と絵に体験を結び付けることで、想像力は育つ。
言葉を覚え、絵と関連づけられるようになったら、どんな読み聞かせが効果的?
「読む」ことの基礎ができはじめる、1歳から2歳頃の読み聞かせについてのお話です。
M村
「ママ」「ブーブー」のような意味のある言葉が出始め、やがて2語文へと発展していく、1~2歳の頃。
言葉が飛躍的に増えていくこの時期に、絵本はどんな役割を果たすのでしょうか?
個人差はありますが、この頃になると絵本への反応もだいぶかわってきます。たとえば、食べもののページでは口に手を運ぶしぐさをしたり、時計の絵を見て実際の時計を指さしたり。
「知ってるよ。コレ、食べるものだよね」「これはおうちにあるコレと同じだね」など、子どもからメッセージを発信してくるようになるのがこの頃ですね。
Sさん
M村
言葉がおぼつかないぶん、「わかったよ!」というメッセージを全身で一生懸命伝えてくる姿は本当にかわいいですよね。
0歳の頃はおもちゃと同じレベルだった絵本が、こうやってコミュニケーションツールとして成立してくると、読む方もだいぶ張り合いが出てきますね。
0歳の赤ちゃんならではの反応も、もちろんかわいいんですけどね(笑)。
言葉の発達だけでなく、1歳すぎると赤ちゃん時代に比べ、食べるものや行動範囲がグンと広がり、いろんなものを見たり聞いたりするようになります。そうした経験と絵本をうまくリンクさせながら読み聞かせをしてあげると、子どもの反応もより生き生きしたものになります。
そういう点でおすすめなのは、たべものの絵本です。「味」「におい」「カタチ」「色」「手触り」と複数の感覚とリンクするので、経験と言葉がしっかりと結びつきやすいと思います。
Sさん
M村
たしかに、食べものは身近ですし、わかりやすくていいかもしれませんね。ただ、野菜などは調理でカタチが変わってしまうので、「カタチ」と「名前」はいいとして、「味」にうまくリンクしないかも。
「味」までしっかりリンクできる絵本ってありますか?
もちろん、ありますとも(笑)。
食べものの絵本として非常に評価が高い、平山和子さんの『くだもの』がおすすめです。
すいか、もも、ぶどう、りんごなど、子どもの大好きな果物が、本物そっくりにみずみずしく描かれていて、おいしさがしっかりと感じられる絵本だと思いますよ。
Sさん
M村
わー、ホントにおいしそう!
あ、コレ、切る前のまるごとの状態の絵と、切って食べる直前の絵がワンセットになっているんですね。この「さあ どうぞ」の絵を見ていると、本当に食べたくなっちゃいますね。
でしょう?(笑)。
この本の読み聞かせをすると、必ずといっていいほど、この「さあ どうぞ」の後に子どもが手を出して、フォークを受けとって食べるマネをするんですよ。
それって、絵を見て口の中にそれぞれの果物のみずみずしい味が想像できているってことなんです。
Sさん
M村
確かに、もし、ここに出てくる果物を見たことも、食べたこともなかったとしたら、食べるマネをしたり、おいしい、というしぐさは出ないですよね。
前に、「本を読むためには想像力が必要」という話をしましたが、想像力って実は“その場にないものを頭の中にイメージする力”のことなんです。
ですから、こうして絵を見てリアルな体験、味や音や感触をお母さんといっしょに楽しみながら再現することは、とても大切なんです。
Sさん
M村
「これ、おいしいね」「このまえママがくれたよね」「またたべようね」
言葉が出始めたとはいえ、1~2歳ではまだまだ伝えきれないメッセージを、こんな風に絵本の読み聞かせを通して受け取ることができるんですね。
そうですね。そうして読み終わって、「じゃあ、リンゴをむいて食べようか!」と一緒に食べれば、さらにお母さんとのうれしい時間が結び付いて、絵本もくだものも、もっと好きになると思います。
2歳を過ぎたあたりなら、同じ平山和子さんの『おにぎり』もいいですね。
炊きたてのごはんが、お母さんの手のひらでおにぎりになっていく様子が描かれた絵本なんですが、ごはんの一粒一粒までふっくら、海苔もぴかぴかで、本当においしそうに描かれて、見ていると絶対におにぎりが食べたくなりますよ。
Sさん
M村
こっ、これは!見ているだけで、おなかが鳴りそうです(笑)。
これを読んだ後に一緒におにぎりを作ったら、子どもは喜ぶでしょうね~。
さっき絵本で見たあの「くるっ くるっ」を、実際に目の前で見られるんですから。私が子どもだったら感動しちゃうと思います。
一緒におにぎりが作れる頃ということで、さっき2歳過ぎたあたり、と言ったんですが、おもちゃのおにぎりでも、一緒にただ真似をするだけでもいいんです。ご飯が炊けるまで我慢できないからと、コンビニにおにぎりを買いに行ってもいい。
言葉のつたないこの時期だからこそ、絵本をきっかけに親子のコミュニケーションを深めていって欲しいですね。
Sさん
第3回インタビューを終えて
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絆アベニュー
編集部員 M村 いろいろなことを経験し、その感覚を絵本で共有し、また体験する。この一連の流れが想像力の基礎になる。
読み聞かせというと「本を読んで聞かせるもの」というイメージがありますが、言葉の出始めの時期の絵本は、子どものメッセージを確認するコミュニケーションツールでもある、ということを実感しました。
さて次回は、3歳からの読み聞かせについてのお話です。言葉の能力の成長とともに、どんどん広がる読み聞かせの楽しさをお届けします。どうぞご期待ください!
今回のお話に登場した絵本
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おにぎり
文:平山 英三
絵:平山 和子
出版社:福音館書店(1992年)
価格:800円(税別) -
くだもの
文・絵:平山 和子
出版社:福音館書店(1981年)
価格:800円(税別)