本をはさんで親子で話そう


Chapter 4親子で脱線しながら、ストーリーをふくらまそう。
言葉の能力が成長し、「なぜ?なに?」が増えてくるのは、物語を欲しがっているサイン。
ストーリーを理解し始める、3歳を過ぎてからの読み聞かせについてのお話です。
M村
幼稚園や保育園に通い始め、言葉を使ったコミュニケーションのレベルがグッと上がる、3歳を過ぎてからの読み聞かせ。
起承転結のあるストーリー、いわゆる“物語”が楽しめるようになる時期と言われますが、どんなお話を選べば良いのでしょうか?
一般的に良いと言われるのが、「行きて帰りし物語」、“主人公がいつもの場所からどこかへ出かけ、冒険や新しい体験をして、またいつもの場所へ戻ってくる話”です。
小さな子どもにとっては、お話を聞くことそのものが冒険なので、ハラハラドキドキした後に、ほっと安心できる結末がないと、気持ちが不安になってしまうんです。
ですから、お子さんが小さいうちは特に、冒険のスケールの大小に関係なく、最後には家族や仲間のもとに戻り、安心して終わる物語を選んであげてください。
Sさん
M村
なるほど。ああ、だから昔話には「めでたし、めでたし」で終わるものが多いんですね!
鬼や山姥やオバケが出て、怖くてドキドキしても、最後はいつもの日常が戻ることでほっとする、と。
日本に限らず、海外にもそういうお話は多いですよ。
読み聞かせでよく紹介される北欧民話、「三びきのやぎのがらがらどん」などはその典型ですね。3匹のヤギが、トロルという怪物に出会い、ハラハラドキドキしますが、最後はいつもの平和な日常が戻ってくる。おしまいの「チョキン、パチン、ストン」も、日本の民話でいうところの「めでたし、めでたし」のような役割ですしね。
そうそう、「三びきのやぎのがらがらどん」もそうですが“同じことが3回繰り返される”というのも、世界の民話の共通点なんですよ。
Sさん
M村
確かに、「3匹のこぶた」なんかまさにそうですね。
昔話の定番「桃太郎」でも犬、猿、キジがお供になるシーンも、考えてみれば同じパターンの3回繰り返しですもんね。
でも、何で3回も繰り返すんでしょう?パターンの繰り返しで「次はこうなるのかな?」と、展開が予想できますが・・・・。もしかして、この先どうなるか全くわからないことによる不安を減らすため、とか?
コレという答えは断言できませんが、「不安の軽減」もひとつの要因かもしれませんね。
3回同じパターンの繰り返しで、ハラハラドキドキして、最後にはめでたしめでたし、というお話、日本のお話にも結構あるでしょう?
ほら、これなんかそうですよね。
Sさん
M村
「たべられたやまんば」・・・あっ、これ「3まいのおふだ」ですね!
子どもの頃、私も大好きでした。でも、こういう民話って、元の話が同じでもタイトルや展開が違ったりして、自分が子どもの頃に親しんだバージョンが見つからないことが、結構あるんですよね。
まさに、そういうときこそ、私たちの出番。「こんなお話で、こんな絵で・・・」というのがあれば気軽に声をかけてくださいね。
ところで、鬼や怪物が出るものばかりが「冒険」と思いがちですが、「あさえとちいさいいもうと」のように、子ども目線で日常の中のハラハラドキドキを描いた物語もまた、おすすめしたい「行きて帰りし物語」のひとつなんです。
Sさん
M村
おつかいに行くお母さんに、小さな妹の面倒を頼まれた、主人公のあさえちゃん。ちょっと目を離した隙にいなくなってしまった妹を探す短いお話の中に、「どうしよう?」という戸惑いや「見つけなくちゃ!」というお姉ちゃんとしての責任感が、よく出ていますね。
あれ?でも、この主人公の緊張と戸惑いって、どこか宮崎アニメの「となりのトトロ」に共通するような気がするんですが・・・・。
ああ、そういえば、影響を受けているかもしれませんね。
宮崎駿監督が林明子さんの絵本を資料にされているという話を以前、聞いたことがあります。
小さな子どもだけのお留守番は、今では考えられないかもしれませんが、初版の昭和52年頃にはごく日常的な光景でしたよね。
Sさん
M村
そうですね。地域の目が今よりもたくさんありましたしね。
ところで、ストーリー性のあるお話を読み聞かせするときには、やっぱり、声色を使ったり、登場人物の役になりきって、感情を込めて読んだ方がいいのでしょうか?
「子どもを楽しませなくちゃ!」と、無理に気負う必要はないと思いますよ。
むしろ、私たちが大勢の前でする読み聞かせは、話の輪郭がぼやけたり、登場人物のイメージを決めつけないよう、あまり演出をせず淡々と読みますしね。
家での読み聞かせで大事なのは、「読み方」よりもまず、親自身が楽しむことだと思います。演出に凝ってみるもよし、静かに淡々と読むもよし。ストーリーを脱線したっていいんです。
ぜひ、自分らしいスタイルを、お子さんと一緒に見つけてください。
Sさん
M村
確かに「上手く読まなくちゃ」「楽しませなくちゃ」とアレコレ構えると、プレッシャーを感じて、つい「また今度ね」となってしまうもの。まずは親から楽しまなくちゃ、ですよね。
ところで、子どもって何度でも同じ話をリクエストしてくるじゃないですか?毎回きっちり同じように話して聞かせるのって、正直ちょっと辛いなぁという時もあって・・・。
そういうときは、思い切ってストーリーを脱線しちゃってもいいってことですか?
そういうことです(笑)。
そんなときは、「なんで(主人公は)こんなことするんだろうね?」とお話の途中で子どもと一緒に考えてみたり。
ストーリーによっては主人公を応援するために、本に向かって「頑張れ―!」って声をかけてみたり。
本線から脱線して、楽しんでいいと思います。親子で一緒に楽しんだお話は、きっとお子さんの忘れられない物語のひとつになることでしょう。
Sさん
第4回インタビューを終えて
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絆アベニュー
編集部員 M村 帰るべき温かい場所があるからこそ、子どもたちは、物語(おはなし)の翼に乗って冒険の旅に出ることができる。そして、その冒険を親自身も一緒になって楽しむことで、物語は色鮮やかな子どもの心の記憶となり、それはやがて、「本を読むことの楽しさ」につながっていく。
今回のお話では、第1回で出てきた「本を楽しむ力」を育てる、物語の読み聞かせについてお聞きしました。
次回は、ストーリーテリングとも言われる、“素話(すばなし)”の魅力を中心に、絵がなくても文字だけで本を楽しめる力の育て方について考えます。どうぞお楽しみに!
今回のお話に登場した絵本
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三びきのやぎのがらがらどん
訳:瀬田貞二
絵:マーシャ・ブラウン
出版社:福音館書店(1965年)
価格:1,100円(税別) -
たべられたやまんば
文:松谷 みよ子
絵:瀬川康男
出版社:フレーベル館(1981年)
価格:1,500円(税別) -
あさえとちいさいいもうと
文:筒井 頼子
絵:林 明子
出版社:福音館書店(1982年)
価格:800円(税別)